東宝木町の住宅

水田を眺める空洞

水田を俯瞰する住宅の計画である。敷地は宇都宮市郊外にある。東側に少しまとまった水田が残るが、このような立地は周辺環境の変化が起こらないとも限らない。将来的な変化に翻弄されない住環境の在り方が模索された。

ここでは、水田側に面した場所に、大きな空洞のような場所を設けようと考えてみた。なぜ大きいのか分からないぐらい大きな「空洞」が作り出せれば、外部環境の変化に抗い得るのではないかと思ったからだ。
外部環境は自然/人工物にかかわらず常に移り変わり捉えどころがない。「変化」とはその変わり続ける流れの中の、ある切断面の時間的な推移である。ある任意の時間で区切り環境を推し量って比較するということだ。この場合の任意の時間的な区切りとは敷地の内部側での都合による。敷地内部において、周辺環境の変化に対応させる計画をおこしたときに初めて顕在化するのだ。その対応関係が「変化」を生む。つまり「変化」とは敷地の内部側から生じているのだ。そうであれば、周辺環境との対応関係を内部に作らなければ、環境を変化と捉えなくともよい。変化に翻弄されることもなくなると考えた。
こうして、外部の変化に対応しない「大きな空洞」を作るに至る。生活空間は、その「空洞」を媒介にすることで、外部の変化に囚われることもない。外部の変化とは異なる時間軸をもつことになる。つまり、「大きな空洞」越しに映るのは、唯々、止むことなく移ろい続けるひとつの流れになるということだ。
こうして環境から自立することで、「変化」に対応を迫られる側から「変化」を俯瞰する側へと立ち位置が変わる。変化に翻弄されるのではなく、環境に対する「語り部」としての生活が始まるのだ。

(押尾章治/建築雑誌 『KJ』2013.6月号)

設計/押尾章治/UA
用  途 :専用住宅(夫婦+子供2人)
敷 地 :172.61㎡(宇都宮市宝木町)
建築面積 :103.14㎡ 延床面積 :159.29㎡
規 模 :地上2階  主要構造 :RC造+木造+鉄骨造
建築設計 : UA/押尾章治、伊東克明
構造設計 : オーク構造設計/新谷眞人、川田 知典
設備設計 : アイシステム設計/沢田守
家具デザイン:押尾章治 + hhstyle/渡邊淳
施  工 : 成常建設/松島清