しらさぎ美術館(Y邸の離れ)

設計/押尾章治/UA

 

しらさぎ美術館インタビュー

個人と地域を繋ぐ道
水田と里山が広がる一角に古くからある集落.その南の端に,その敷地はあった.南北の2本の道に挟まれたその土地で,庭は集落の人びとの南北の道を繋ぐ通路として開かれ続けてきた.30年間続けられてきたこの習慣から,庭は道になった.個人所有の敷地の中を人が自由に通り抜けていく.土地所有の考え方からすれば奇妙な光景ではある.しかし少しの譲歩によって,私有地が公共性を持った姿がここにあり続けていた.

その土地の持ち主は,美術作品の収集を趣味としていた.地元に縁のある作家で自分の琴線にふれた作品をこつこつと集め続けてきた人だ.その人の長年の夢は,これらの作品を地域の人たちに静かに鑑賞してもらう「離れ」をつくることだった.

この「離れ」は,その「道」の上に建てられた.長い時間をかけて踏み固められてきた道をそのままにして,道は建築化された.10坪の展示室と書斎,収蔵庫が,直線と円環状の「道」に貫かれるかたちだ.展示室と書斎の入口は,トンネル状の通路の中央で向かい合う.そこを基点に,展示室側の外壁を「道」に沿ってカーブさせることで,敷地西側へ大きく円を描く「道」へと繋がる.地域や歴史を伝える近代の遺構や材料から,施主の個人的な思い入れのある品々などが,その円環状の「道」に沿って並べられている.周囲の田園風景と共に展示品を鑑賞する円形広場である.

くぐるという行為だけをそのままかたちにしたミニマルな外観の「離れ」と,そこを抜ける幾何学的な「道」の組み合わせ.その構成が地域の公共性に対応する間口の大きさと,小さな一個人の趣味生活というスケールの違いを繋ぐ.そしてさらには周辺の田園風景までへと意識を広げていく.地域に根ざした生活の実感は,単純な動きの中で深まり続けるのである。

(押尾章治/新建築201103号)

用  途 : 美術館(個人住宅の離れ)
構造規模 : 木造/地上1階
敷地面積 : 464.80㎡(140.60坪)
延床面積 : 73.00㎡(22.08坪)
住  所 : 宇都宮市下田原町1758-1
設計・監理: 押尾章治+UA東京、宇都宮事務所
施  工  : 成常建設

【展示内容について/美術館から】
展示内容については、栃木県内ゆかりの作家が中心です。(日本画)荒井寛方・島田訥郎、(洋画)矢口 洋・武藤玲子、(益子焼)濱田庄司・佐久間藤太朗、田中正造の書・田中一村などです。大きな公立美術館に有るものと違い、私的作品の良さを出しながら 、日常生活に安らぎを与えることを目指しています。当分の間は毎月2回(第3、4日曜日)のみ会館予定で、それ以外の開館日についてはご相談ください。
しらさぎ美術館)

鳥村鋼一撮影