TSビル

ディテールがつくる視線の長さ
敷地は沿線の駅が近くとてもにぎやかな場所にある。幹線道路沿いには小規模商業ビルが建ち並ぶ。その後背には住宅地も控えるが、明確な境界もないまま混ざり合う。多摩川付近の地域ではよく見掛ける街並みである。4層分の商業テナントと2層分の住居の入ったビルの計画である。
外観については、雑然とした街並みから浮き立つ商業ビルとしてのデザインと、自宅が入ることになる落ち着いたデザインという、大きく二律背反するテーマが繰り返し話し合われた。

そうした方向性を総合するためには、全体の大きなかたちを操作するより、小さく局所的な質感を変えることで、結果的にその集合が大きなイメージを変容させていく手法を選びたいと考えた。
具体的には、コンクリートという単一素材の外観の構成を、連続する矩形の開口を少しずつオフセットさせることで層間を跨いで配置する。打継ぎ目地で区切られるコンクリート建築特有のスケール感が少しずらされる。併せて、ファサードの開口壁面を、バルコニーを挟んで白い壁を挿入し二重構成とすることで、更に冗長さが加わる。局所的に形態を認識するときに、常にその周辺や全体を意識させるようなデザインとした。そうした微妙な部分での差異化を目指したのである。
街並みを巡る視線には、様々な目的や意識が持たれていると思う。でもそうした眺めの中に、他とは少しでも異なる滞留時間がつくり出せればと考えた。

(押尾章治/建築雑誌 『KJ』2013.6月号)

“単にコンクリートに穿たれた穴”というディテール表現。

 

 

[写真は全て中川敦玲撮影]

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