下田町の町屋

2005年度栃木県マロニエ建築・景観賞受賞

新たなる町屋の再生

施主は親子三世代に渡り、木工のまち鹿沼市の伝統工芸を支えてきた桐ダンス屋である。敷地は鹿沼市の中心地にほど近い区画整理地内にあり、周辺一帯は道路の位置変更に伴い、街区全体が建て直され、新しく生まれ変わろうとしているところであった。将来隣接する建物の状況が一切分からない状態の中で、桐ダンスという伝統工芸と、開放的な生活をのぞまれるご家族のために、伝統的な町屋形式を現代的に再生しようと試みた。

平面的には、1階の道路側に面したショールーム(見世)から、奥の中庭に対して一本の軸線を採り、軸に向き合うように工房や居間、和室を配置した。2階でも工房上部の広いテラスと中庭を囲むようにL型に諸室を配し、元々町屋が持っていた内側に開かれた開放的な都市型の居住を実現させることを意図した。

意匠的には、建物全体を黒い立ハゼ葺の板金で包んでみた。特にファサードは、ひとつの大きな建具のように扱い、板金の太いボーダーと細い線材が織りなす陰影や、アルミ格子、フロストガラス等を組み合わせることで、「和」空間の持つ「質」を金属材を用いて抽出してみようと思った。それが引き継がれるべき「質」を残した、現代的な町屋再生につながると考えたからである。さらに庭を囲むL型面に接するH型鋼の柱も、全て銀色の板金で巻き込み、連続するアルミサッシュと一体化した大きな建具面として扱った。一枚の薄い板金を巻き込み繊細な表情を持たせることで、H型構造材の強さは大きく薄れる。和室空間が持つような、華奢な建具により柔らかく隔てられた内部/外部の関係も、併せて表現できると思った。

また、1階の客間や和室では、施主が先代や先々代から受け継いだ、紫檀、タガヤサンの床柱や組子の建具、天井板などを加工して再利用している。時代の流れに沿って区画整理が行われ、家という容れ物は新しく変わっていくが、代々引き継がれる家業と同様に、家に纏わる記憶の形象は受け継がれるべきだと思ったからである。

ファサード。正面1F右側がショーウィンドー。左側が桐ダンス工房。2Fは住宅部個室。全て板金のリブが覆う。

板金リブ(D=200)のディテール。

ピロティ入り口格子戸。奥の格子戸を空けると中庭へ。

段吹き抜け。正面は外部デッキへ上がる階段。

鋼を板金


(撮影は全て藤塚光政)

設計 : UA/押尾章治、中津雅美 (協力)福西健太
構造 : 牧野構造計画/牧野里美
照明計画 :松下電工/田中晴美
竣工年:2004年
所在地:東京都栃木県鹿沼市下田町
主要用途:桐ダンス工房併用住宅
規模 : 敷地面積/378.00m2
建築面積/260.28m2
延床面積/343.00m2
構造 :鉄骨造
階数/地上2階