CLINIC AO |

「CLINIC AO」落合歯科医院AODインプラントセンター

埼玉県秩父市／歯科医院

「自然」と「歯科医院」の物語

自然をテーマにした歯科医院に改修したい。はじまりはこれだった。

電話の向こうは、2006年に竣工した拙作「house ao」のクライアントである歯医者さんミスターホワイト落合先生だ。秩父市で医院を開業していて、そろそろリニューアル時期を迎えていたのである。住宅の設計にかかわっていた当時から、そしてそれ以降の付き合いの中でも、折に触れ「自然」との向き合い方を語り合って来た。その延長上に今回の改修のテーマも設定されたのである。もちろん今回は「house ao」のようにはいかない。
折り重なる緑に囲まれる訳でもなく市街地の中である。尚且つ医療・サービス施設なのである。「自然」との係わり方が様々に思い巡らされはじめた。

具体的な計画内容でいえばそれほど大規模な改修ではない。4床ある診察台の内1床をオペ室とするための10m2に満たない増床と、接客のサービスのあり方を見直し、客用／スタッフ用それぞれに分かれていた動線を一本化し、それに伴いプランを変更した。その他は内外装の仕上げのやり変えが主である。そのあたりは開業後10数年間培ってきた経験と今後の医療サービスの在り方への展望により、合理的で効果的なリニューアルとして設定されたのである。

それゆえ必要最小限の改変という枠組みの中で、「自然」を織り込んでいかざるをえないわけである。もちろん、「自然」がテーマだからといって緑を沢山持ち込めば良いというものではない。ましてや医療施設としての衛生管理上の問題もある。そこで手法としては、最小限の「自然」のメタファーから、最大限の「自然」へのイマージュが喚起される構造が必要だと考えた。丁度、茶道の世界でいう、茶室の床の間の設えが「自然」を映し出すのと同様である。

この歯科医院では、それを待合のインフォメーションコーナーに置いてみた。草模様の壁紙を背景に、カウンターの端に手製の花器が引っ掛る。茶道の亭主が設えるお軸の代わりは、院長のメッセージポスターなのである。そしてそれら設えが、医院全体の床と天井に拡がる波紋模様の中心に据えられているのである。

この医院の内側では、窓には布パネルがはめ込まれ外の景色は伺えない。樹の影が揺れるのみである。そして内部空間は白と草模様の壁紙で張り分けられている。来訪者は、外構にまではみ出していた波紋の意味をその先の待合の花器で知り、それ以降はどこにいてもそこに活けられた「自然」のアイコンとの距離に拘束されるのである。診療室に入っていくときの床の波紋や、治療中に眺める天井の波紋を見るにつけ、どこにいても待合室の中心との距離を推し量りつつ、その外の世界に広がる大きな「自然」へと繋がれるのである。診療台の上で口をあけながら目を閉じると、そこから先は「自然」が味方してくれるのである。

押尾章治

（改修の平面計画図は写真のあとにあります ↓ ）

外壁、屋根ともに真っ白に塗り替えられた外観。4本の樹木（アオハダ）は、窓に葉の影を落すために植えられている。